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2015年4月10日(金)に 愛知教育大学学術情報リポジトリ は登録件数5,000件を突破いたしました。 文献をご提供いただいた皆様,リポジトリをご支援くださった皆様に心より御礼申し上げます。 5,000件突破記念として,論文 "友人との関係の親密さと友人の特徴が生徒の学習動機づけに及ぼす影響" 愛知教育大学教育創造開発機構紀要. 2015,5,p.133-140. の著者である学校教育講座 石田靖彦先生にインタビューを行いました。


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↑学校教育講座 石田先生


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研究者総覧(日本語)




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↑インタビューの様子です

石田先生インタビュー  2015年5月11日(月)
                     於:附属図書館事務室

■ 研究分野について

インタビュアー: 最初に先生の研究分野について教えてください。

石田先生: 社会心理学といって,心理学の中でも人間関係について研究しています。 特に学級の中での友達関係の形成や仲間集団の形成を中心としています。また,仲間集団が出来ると, 良くも悪くも影響を受けるようになりますので,友達や仲間集団からどういった影響を受けるのか, といったことも研究しています。

インタビュアー: 昨年度末に出された2本の論文もそのような内容かと思うのですが,簡単にお教えいただけますか。



石田先生: これは中学校1年生を対象にした研究です。 最近,中1ギャップという,中学校と小学校の接続の問題がクローズアップされていますが, 中学校1年生は,小学校と比べて勉強が難しくなったり進み方が早くなったりするだけではなく, 複数の小学校からひとつの中学校に進学するということで,新しい友達関係も作っていかなければなりません。 学級の中での友達関係が,勉強に対する意欲や取り組みにどのような影響を及ぼすのかを調査をしたのが, この2つの論文です。

インタビュアー: 先生の過去の論文も今回と同じように中学生を対象にされている研究が多いですね。

石田先生: 小学校でも学級の中での人間関係が,勉強や学級への満足感に影響していますが, 学級担任制であるため,友達関係が良くない,勉強に対して意欲が出ていないという子どもの状態に教師が気づきやすいのです。 しかし中学校に入ると,学習の方に重点がおかれ,学級の中での友達関係に教師の目が届きにくくなります。 また,小学校から中学校への移行は,子ども達にとっては大きな変化です。その変化をうまく乗り越える子もいれば, そうではない子もいます。そこの部分に焦点をあて,友達関係がうまくいかないために, 勉強に対する意欲が伸びないということもあるのだ,ということを調べていきたいと思ったのです。

インタビュアー: 大人が思っている以上に学級での友達関係は重要なのですね。日本人は特にそのように思いますが,そうでしょうか。

石田先生: そうだと思います。それには学級の特殊性があると思います。外国では教科ごとにクラス編成が変わるところがあります。 日本でも一部の教科,例えば,数学などでは習熟度で分けることもありますが,基本的に日本の学級は全ての授業を, 35人から40人の同じクラスで受けます。給食もそこで食べ,掃除もみんなで一緒に行い,という特殊な空間だと思います。

■ 中学校での社会心理学体験

石田先生: 以前は大学生の友人関係の研究を行っていましたが,教員養成系に就職したということと, ある中学校で子ども達に社会心理学を体験してもらう機会があり,学級の中の人間関係はすごく大きいということを実感したため, 中学校での研究をするようになったのです。それは,いわゆる社会心理学を,子ども達に体験を通じて気づいてもらう, というプロジェクトで,論文の共著者でもある吉田先生が中心になって,中1~中3まで2週間に2時間程度, 3年間実施しました。実施したのは10年近く前になります。 友達を理解するときに偏った見方をしていたり,同じ友達であっても自分の見方と他の友達が違う見方をしていたり, 自分の見方が正しいと思いこんで他の友達がどう見ているかは気づかなかったり,一人一人で考えると色々な意見があるのに, 集団で考えると一定の方向に偏ったり,人間は集団になると合理的でなくなることもあったりということを, 少し冷静に体験型の授業を通じて考えてもらったのです。

インタビュアー: そういった体験を教室内で再現されたのですね。子ども達はどういう反応でしたか。 また体験の前と後とで変化がありましたか。

石田先生: 結構楽しく参加してもらえました。人間にはこういう特徴があるということを感じている子もいるのですが, 言われて改めて認識した,というように,好意的に受け止めて興味深く実施してもらったと思います。また,授業や日頃の友達との関わり方で, この前の授業でやったよね,気をつけないとね,と端々で言ってくれるようになりました。今は作成した授業案にもとづいて, 現場の先生が引き継いで実施して下さっています。

インタビュアー: いじめ問題などにも関連して,様々な見方を体験してもらって,認識してもらうのは重要なように思います。

石田先生: それもありますし,いじめは悪いことだと分かっていても,周りが「悪い」と発言をしなかったり見て見ぬふりをしていたりすると, 他人は「良い」と思っているんだと多くの人は思いがちです。また,周りの人が言っていないことを自分だけ言うのは勇気のいることです。 しかし,他人も言わないだけで駄目なことだと思っていることもあるわけです。 それが分かるだけで変わることもあると思うのです。もちろん,それだけで全てが解決するわけではないのですけれどもね。

インタビュアー: 学級は以前と比較してあり方が変わってきたりしているのでしょうか。

石田先生: 先ほど小学校に比べて中学校の方が生徒との関わりが少なくなるといいましたが,昔に比べると先生たちはクラスの生徒のことを 把握していると思います。特に愛知県は小学校と中学校間の教員の連携が強く,小学校を経験してから中学校に異動される先生もいらっしゃいますので, 小学校と中学校の両方の視点をもった先生が多いと思いますね。

■ 思い通りでない結果から新たな考え方が生まれる

インタビュアー: 社会心理学の研究の面白い点を教えてください。

石田先生: 社会心理学だけではないのですが,結果はこうなるはずなのにと思っていても,調べてみると全然違う結果が出てきたり, 観察したことと質問紙で得たものがずれていたりということがあります。ずれているからこそ,新たな解釈や考え方が生まれてくるのが面白い点かと思います。
 最初に紹介した論文もそうです。まず新しい環境の中で,親しい友達がいるかどうかが授業中の意欲や取り組みに影響を及ぼすだろう,と考えました。 それは結果もそうだったのですが,もう一つの仮説として,友達が一生懸命勉強に取り組んでいれば,自分も頑張ろうという気になるだろうし, 勉強がどうでもいい友達がいれば,自分も勉強がどうでもよくなるんじゃないか,つまり良い意味でも悪い意味でも友達に引きずられると思っていたのですが, 友達が一生懸命勉強していると逆に勉強しなくなる,友達が頑張らないと自分はやる気がでてくるというケースがあったのです。 それが1本めの論文で,本当にそんなことが起こっているのかを勉強場面で調べたのが2本目の論文なのですが,やはりそういう結果となりました。 

■ 全員が勉強が面白いから勉強しているわけではない

インタビュアー: 論文には友達との親密感が影響すると書かれていましたね。

石田先生: 親しい子を4人あげてもらって調べたのですが,「学級」の中での制限付きなので本当に親しい場合と, 学級で一緒にいる友達を何となく作らなくてはならないということがあって,一緒にいるけれどもそんなに親しいわけではない, ということが起こりえるのです。
 そういう子ども達は,その友達とどっちが勝つのか負けるのかに敏感になのですね。そういうことを感じないですむくらいの親しい友達であれば, 友達が頑張れば自分も頑張ろうとするけれども,この友達には負けたくないということに敏感な人達は,友達が頑張っていれば自分が負ける可能性があるわけで, 負ける前に自分は勉強は別にいいやと自分が傷つかないように防御線をはってしまう,逆に友達が頑張っていないと自分が勝てる可能性があるわけなので, より頑張ろうということになるわけです。
 勉強が面白いからすごく楽しい,成長していて楽しくなる,そういう子ども達はすばらしいのですが,社会心理学の面白いところは, 全員がそんなことを思って勉強しているわけではなく,自分が負けるかもしれないから勉強する子もいるというところですね。 それは本来の勉強ではないかもしれないですが,そういうことで友達から影響を受けている面もあるわけです。 こういったことをデータを通じて示したい,それがこういう研究をやりはじめたきっかけです。

インタビュアー: 人間の様々な側面をデータで示すことができるのですね。中学生くらいだと男の子と女の子で違うこともありますか。

石田先生: 競争意識や自他の優劣ということですと,男の子の方が女の子に比べて敏感ですね。大学生になると,自分よりも優れている子に対して, 自分が負けていてもこんな風になりたい,というように変わってきます。 女の子の方が自分よりも優れている子と一緒にいたいというように,大学生の結果に近いものが出てきます。
 小学生4年生頃から他人との比較をするようになります。ただ小学生であれば,勉強でどちらが上か下かはあまり明確ではないですよね。 中学生になるとテストの結果がきっちりでるようになりますので,自分はできると思っていたのに友達より下だった,もしくは自分のほうが上だったというようなことが, はっきりするようになります。そのことによって,頑張ろうと思う子もいればやる気をなくす子もいるのです。 高校や大学では他人と比較する基準が多様化してきて,私はこちらのほうが重要だから勉強では負けても別にいい,ということがおこります。 中学生では他人と比較する基準にそれほど多様な軸をもっているわけではありません。勉強ができる,運動ができる,そういった比較を意識しやすいし, 上下が明確に現れてくるので,影響を受けるという時期だと思います。

インタビュアー: 比較の軸が増えていくのは経験によるものなのですか?

石田先生: 経験ももちろんあるでしょうが,比較される環境もあると思います。中学生の場合,初めての選抜である高校受験が3年後に控えています。 大学受験では,センター試験はありますが,受験科目はそれぞれ違ってきます。人と比べられる評価の環境自体が多様化されるということがあると思います。

■ 多様な視点で見合えるようになれば生きやすくなる 

インタビュアー: 高校受験も多様な軸で行われるようになれば,中学生の競争意識も和らぐことになるんでしょうか。

石田先生: 昔のことはわからないですが,実際,多様化しつつあるという気はします。単純にペーパーテストだけではなく, 自分で判断して表現してということが求められるようになってきて,テストで優劣ということだけではなくなってきていますね。 学級の中でも,勉強を重視する見方もあれば,勉強ができなくても学級の中でリーダーシップをもってやっていることを評価するというように, 様々な視点で先生も見る。子ども達同士がいろいろな視点で見合えるようになれば生きやすく,過ごしやすくなりますね。

インタビュアー: 社会心理学を勉強したい方へのアドバイスはありますか。

石田先生: 自分自身の経験を振り返ったり他の人を観察したりする中で人間の特徴を考えたり,感じたりすることです。 ただ,自分が考えたり感じたりしていることは,偏りがあってずれていることが多いので,心理学を勉強する上で大切なのは, そのことについて他人と議論をする,ということです。そして,心理学を実際に研究するということは,日頃の議論の中で疑問に感じたことについて, 観察や面接や質問紙を通じて,自分が思っていることが本当にそうなのかということを確かめてみることなのです。 また,教員養成課程を卒業して先生になれば,クラスには色々な子がいて何故こんなことをしちゃうんだろうということがあると思います。 それは何故だろうかということを色々考えたり,議論するということが必要です。 人間関係や人の行動について多面的な見方ができることは,研究に限らず,教師にとっても重要なことだと思います。

インタビュアー: 最後に図書館に一言お願いします。

石田先生: リポジトリで色々な論文を公開してもらえるのは研究している側にとっては励みになります。 アクセスをしてもらって読んでもらえるんだということが大学にいながら分かるのは教員にとってやりがいがあることです。 今後も積極的に情報発信をしていただければと思います。

インタビュアー: 本日はありがとうございました。


(インタビュー・まとめ)愛知教育大学情報図書課
   電子資料担当係長 古田
(写真)  情報図書課 目録情報担当 稲垣



愛知教育大学附属図書館