2009年11月2日(月)に 愛知教育大学学術情報リポジトリ は登録件数2,000件を突破いたしました。
文献をご提供いただいた皆様,リポジトリをご支援くださった皆様に心より御礼申し上げます。

2,000件目の論文は 学校教育講座 坂柳恒夫先生坂柳恒夫 "進路指導におけるキャリア発達の理論" 愛知教育大学研究報告, 教育科学. 1990, 39, p.141-155. でした。

突破記念として2,000件目の論文をご提供下さった坂柳先生にインタビューをおこないました。

↑学校教育講座 坂柳先生


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研究者総覧(日本語)





↑インタビューの様子です

坂柳先生インタビュー 2009年11月11日(水) 於:附属図書館

■ 2,000件目の論文について

インタビュアー: このたびは論文のご登録ありがとうございました。2,000件目の論文 「進路指導におけるキャリア発達の理論」 はどのような内容か教えてください。

坂柳先生: ちょうど2,000件目だったんですか?入場者1万人とかと一緒でそうあることじゃないですよね(笑)

 この論文は,進路指導の理論的基盤になっているキャリア発達の理論をとりあげています。最初に キャリアという言葉は伝統的には経歴とか職業という意味で捉えられがちだったのですが, 現代的には職業を考えるというより生き方を考えるという意味の言葉であることにふれています。 言葉について説明したうえで,特にアメリカで提唱されている様々な理論を,内容理論と過程理論という大きな2つのカテゴリーに 分けて整理しました。内容理論はキャリア発達の原因や規定要因に焦点をおく理論で,何故その職業を選んだのか,何が影響している のかということを探ろうとする理論です。一方の過程理論は,職業選択や進路の選択のプロセスがどのようになっているかに焦点を あてた理論です。あくまでも分け方は便宜的なものですので,内容理論だからプロセスを無視しているとか,過程理論だから原因や 影響を考えないというわけではなく,強調点の違いです。諸理論を2つのカテゴリーに分けて整理し,まとめとして,これまで 出てきた理論の現状評価,これからのキャリア発達に関わる研究の課題を示した内容になっています。

 1990年に発行された私の若い頃(笑)の論文ですね。その後,新たな理論も出てきて,当時とは違う状況になっていますが, 当時,色々な理論が出てきたので,理論研究を進めていくうえで,既存の理論を整理し,問題は何かを示したほうがいいと いうことでまとめました。

インタビュアー: 「キャリア発達」とはどういう意味でしょうか?

坂柳先生: 自分の進路や生き方についての見方が成熟していくということをキャリア発達とよんでいます。 人間の発達にも知的な発達や身体的な発達,社会的な発達など,様々な側面がありますが,人間の発達の一側面として キャリア発達というのがあります。自分とキャリアとの関係付けにおける発達ですね。自分の進路について無関心だった人が 関心をもつようになる,自分で取り組むという主体的な態度が出てきたりする,こういう進歩的な変化をキャリア成熟ともよんでいます。

■ 専門分野について

インタビュアー: 先生の専門分野についてお教えください。

坂柳先生: 私は学校教育講座に所属していて,進路指導領域の専任です。専門はキャリアガイダンス・カウンセリングになります。 今,学校に求められている教育は,教えられた生徒・学生を送り出す教育ではなく,社会の変化が激しい中で,主体性や価値観を持ち, 変化に柔軟に対処できるような自己成長力のある生徒・学生を育てることではないかと思います。キャリアガイダンス・カウンセリングは, このような要請に応えようとする教育活動,これからの社会の中で,自分の人生をどのように生きるのかという「人生設計の支援」, 「生き方の教育」といえるものです。  職業指導というと,どうしても就職とか職業選択だけに特化したイメージがあるのですが,現在, キャリア教育というと,もちろん職業を含んでいますが,先をみて自立的な生き方ができる人間の育成ということです。

■研究テーマについて

インタビュアー: 先生の研究テーマについて教えてください。

坂柳先生: キャリア発達に関する研究は,私のライフワークといってもよいかと思います。これまでの研究では,中学生・高校生・大学生 などのキャリア発達がどんな状態なのか,キャリア発達の進行が進んでいるとか遅れているといったことを客観的に測定する尺度,ツール を開発するという研究をしてきました。これは愛教大の研究報告に発表しているのではなかったでしょうか。

インタビュアー: この論文 「成人キャリア成熟尺度(ACMS)の信頼性と妥当性の検討」でしょうか。

坂柳先生: これもそうです。青年期だけでなくて,大人のキャリアについても支援していく必要があって,大人用の尺度も作っています。 学校教育にいる人たちだけでなく,キャリア発達というのは生涯にわたるプロセスで,成人にも関わる研究テーマです。私事ですが, 毎年何件かこれを使いたいという使用願いの手紙がきています。リポジトリに載れば,検索できて楽に見ることができますので,いいのでは ないかと思います。

 現在は,主にキャリア成熟とその支援であるキャリア・カウンセリングをテーマにやっています。キャリア成熟とは,キャリアの選択意思決定 やその後の適応へのレディネスのことです。キャリア成熟は,キャリア発達の状態を示すだけではなく,成熟していく過程も含まれています。 したがって,個々人の成熟過程とは,キャリアのどの側面が,どのように形成されていくのかを的確に把握しておくことが必要になります。 自己およびキャリアに関する知識は,キャリア成熟過程へ投入される刺激要因として位置づけられると思います。重要なことは,単に自己や キャリアに関する知識を集積していくことではなく,獲得した知識をどのように生かそうとしているかだと思います。
 また,キャリア成熟過程を通して発生する,キャリアへの不安や悩み・葛藤・それに伴うキャリア・ストレスなど,「キャリアに関する 情緒的問題」にも関心を持っています。

■小学生の職業体験について ~登りたい山に自ら登っていく子どもを~

インタビュアー: 先生は本学の附属岡崎小学校の校長先生もされています。最近では小学生にも職業体験を,という動きがある ようですがいかがでしょうか?

坂柳先生: いい質問ですね(笑)。いま,附属岡崎小学校の校長を兼任でやっていますが,小学校の時期からのキャリア教育の取り組みが 必要だといわれています。いっきに職業じゃなくても良いのです。今の子どもたちが自分の将来に目を向けて,自分なりの夢や希望をもって 生きていくということは大事なことで,そのためには,今の自分に対する肯定的なとらえ方を強めていく必要があります。夢や希望を育むような そういう働きかけとしてキャリア教育というのは小学校のうちから大事になると思います。
 やがて成長して社会で生きていく時にこんなことをしたい,できたらいいなと,子どもたちが明るい展望を描けることが大切です。 もちろん,夢や希望は変わると思いますが,その時期なりにこういうことをしたいという夢があるから目標が生まれ,目標があるから計画が でき,計画ができるとそれに向かって行動しようとする,行動するから成果が出て,自分が成長しているという実感・達成感も得られます。 だから夢に向かってチャレンジできる子どもを育てようということです。
 ただ登りたい山を語るだけではなく,登りたい山を見つけたら自分から足を踏み出して登っていくことが大切です。やりたいことが 見つかっても,自分から山の頂上に向かって歩き出していく勇気がないと頂上には立てません。だから登りたい山を語るのも素晴らしいけれど, もっと素晴らしいのはその山に向かって登っていく,足を前に踏み出してチャレンジしようとする行動力のある自立した前向きさです。 これは別に小学生だけでなく,大人でも同じで,自分なりの目標や希望を持っていて前向きな姿勢でがんばっている人というのは格好 いいですね。

■ りんごの味はかじってみて分かる

坂柳先生: 小学校でも中学校でもキャリア教育や子どもたちが実際を見るといった体験学習に力が入れられています。 子どもたちが働く姿を見たり,自分で実際にやってみるのは,啓発的経験といって,かじってみて分かるりんごと一緒です。 見かけだけ見て美味しそうに見えたのに,逆もありますよね。体験をして得ることは貴重だと思います。ただ,体験をしたことに 意義があるのではなく,体験したことでこんなことに気がついた,学べたということが啓発的な経験なのです。本学の学生が教育実習に 行くというのは,とてもいい啓発的な経験なのですよ。教えてみるということでその難しさも分かるし,また子どもと直接ふれあうと いうことで得ることも大きいし,大学の中にいたのでは得られない貴重な体験です。自分で実際を体験してみたり見てみたりすると いうのは大事なことです。私の分野はそういったキャリア体験を得させるような面も活動領域にはいっています。また自己理解も大事で, 粗探しではなく,いいとこ探しを支援するということです。

■ 現代の職業問題 ~ニートについて~

坂柳先生: ニートに関わって,今日も「キャリア設計とカウンセリング」という授業で話をしました。青少年の人口が減っている中, ニートは日本で60万人以上います。やはりニートをどうにかしないといけないということで,文科省をはじめ他の省庁も関わって 「自立挑戦プラン」などの取り組みをやっています。ニートに対しての様々な調査も行われていて,その結果,ニートの人というのは, 「仕事への自信の無さ」「人間関係づくりへの自信の無さ」「自分への自信の無さ」といった特徴があるということが明らかになっています。 そういうことがクローズアップされてきて,ニートへの対応として必要なのは情報提供よりもまず,自信の回復をいかにしていくかだと いわれています。逆にいうと自己肯定感ということになってきます。子どもたちに自分はできないとか,駄目なんだとかというような意識を 植えつけないようにするために,自分にはいいところもあるし,みんなの役にもたっている,そういった自己肯定感に関わる指導を早い時期 からする必要があります。キャリア支援や私のキャリアガイダンス・カウンセリングでもそうです。将来への展望を明るく描ける子どもは, 今の自分をプラスイメージでとらえていることが多いのです。逆にマイナスイメージが強いと明るい展望を描けないですよね。

■現代の職業問題 ~若者の離職について~

坂柳先生: 離職率も高くなっています。3年以内にやめていく若者の比率は,以前は中卒7割,高卒5割,大卒3割で 「七五三」と呼ばれていました。 いま,大卒は3割をこえて,4割に近く,「七五四」になっています。せっかく正規採用された会社でもいとも簡単にやめてしまいます。
 原因はいろいろ言われていますが,そのひとつとして安直な職業選択があるとされています。自分にあった職業・会社を見つけるには, 働く自分についてまずしっかり研究しないといけません。自分をしっかり見つめ,強みや良さなどの自己理解が大事になります。 それから職業・職場の研究です。正確で新しい職業情報をしっかり集めることが必要です。が,どうも両方とも不十分な状態で,イメージ 感覚で選択決定し,実際働いてみると思っていた仕事と違っていた,自分には向いていないと,青い鳥を探すような具合で他の仕事をまた 見つけようと離職をしていく若者も多いのです。
 職業の世界についてもよく分かっていない,無知と無知を踏まえて選択しているというこ とで,ムチムチの若者が多いと話をしています。離職というのは色んな要因がからんでいるので,全ていけないというわけではないのですが, 安直な職業選択の帰結という面も指摘されています。3年どころか1年くらいでの離職率が高い水準で動いています。私の分野は そういうことの影響もあってキャリア支援ということも言われている領域です。

インタビュアー: 昔よりもインターネットなどで情報は収集しやすくなったように思いますが。

坂柳先生: 情報は非常に多くなっているのですが,必要な情報がどれだけ入手できているかどうか,ということもあります。便利になっている 面もあって,職業に関わる総合データベースもできています。そういうのを知っている人にとってはいいと思います。一方では間違った情報, 誇大情報もあります。だから,情報が氾濫していますが,正確で新しいということ,どこが出所として出しているかということなど, 吟味検討することが大事かと思います。

■ キャリアは生き方の表現,キャリア教育・進路指導は未来創造の教育

インタビュアー: キャリア支援という言葉は知っていながら,深いところまで分かっていないところがありました。

坂柳先生: 現場の先生たちとも話をするのですが,キャリア支援というと職業に特化した教育・支援のイメージがあります。もちろん就職とか 職業に関わる支援も大事なのですが,職業というよりむしろ働く人間のほうに焦点をおいて,生き方支援という視点をいれてほしいですよね。 キャリアを考えるということは将来の職業を考えるということだけではなく,自分自身の生き方を考えることがキャリアを考えることになるの だよ,と。キャリアというのは生き方の表現なのです。
 伝統的なキャリア概念は経歴と職業というまとめ方が多かったのですが,経歴という翻訳で言われるキャリアが問題にしているのは過去から 現在です。過去は戻れないし,変えることもできません。でも未来は,真っ白い状態で今ここから築かれていくわけです。築いていく キャリアというのもあるということです。これからを考える上では何をしてきたのかも大事ですが,でもそれが大事というよりも将来の方が 大事です。自分らしい色や書き込みを自由にできる状態になっています。人に言われて色を塗り書き込みをしていく人生や生き方は後で後悔 します。自分の人生に代役はいないので,最後まで主人公ですし,主役として生きていくわけで,自分にとって幸せで充実した生き方を作り 上げていくということを,自分自身の問題として受け止めることが必要です。自分のこれからのストーリーがどう展開していくかは,自分の これからの取り組む姿勢で変わっていきます。

 命の砂時計の話をよくするのですけれども,赤い命の砂時計の砂が,いま落下しているのですよ。普通の砂時計はひっくり返せば戻せます。 けれども私たちの命の砂時計は有限です。今日という一日だって人生に一度しかない一日で,かけがいのない人生にいま自分が生きているの です。永遠に続く人生ならそんなに真剣に考える必要はないですが,キャリアデザインや人生設計では有限であるが故に時間意識と いうものも必要になってきます。ただこれからはいくらでも自分らしさで表現していくことができます。自分で作り上げていくということが 必要です。

 キャリアは将来志向の概念でもあるのです。経歴という過去だけを意味するのではなく,現実の自分が土台となってこれからの 未来が作られていくわけですし,その点では未来創造の教育ともいえるのが,キャリア教育とか進路指導なのです。先を見てどう生きるか という教育なのです。

■ メッセージ

インタビュアー: 今後この分野で研究される方々へのメッセージがあれば。

坂柳先生: 最近若い研究者の方々でキャリアやキャリア発達を研究テーマとされる人が増えてきています。以前はマイナーな領域だったので, 「変わった分野をやってますね」と言われました。最近はこういったご時世なので,キャリア支援が必要だとか言われるようになりました。 キャリアという言葉自体も日常生活で耳にする機会が多くなっています。だから,まだまだ未開拓というか知られていない部分が多い領域 ですので,やりがいのある研究テーマだと思います。

■ リポジトリについて

インタビュアー: 本日はお忙しい中,貴重なお話をきかせていただいてありがとうございました。最後にリポジトリについてご感想をお願いします。

坂柳先生: リポジトリは使いやすいし,楽に検索できて,すぐ読めるというのはメリットだと思います。私の論文はキャリア発達とか, 進路指導に関心をもってみえる方たちに読んでいただければと思います。研究紀要の論文は,なかなか目にとまりにくいこともあると思いますので, リポジトリのようにインターネットで広く公開されているシステムに掲載されることで,いろいろな人に読んでもらえるのではと思っています。 リポジトリは今後の発展が期待されますし,これから登録数がどんどん増えるといいですね。3,000件目の方がどなたになるかわかりませんが(笑)


(インタビュー・写真)愛知教育大学情報図書課 課長補佐 伊藤
(インタビュー・まとめ) 同 情報サービス係主任 古田



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